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レイ・ブラッドベリ『華氏451度』

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第3回名古屋SF読書会の課題図書です。

華氏451度』は焚書の話というのは基本情報として知っていました。映画版は子供の頃にテレビでやっていたのの最後のシーンだけ見たことがありました。

今年の2月に名古屋シネマテークでリバイバル上映していたので見に行きました。

 原作の方は昔、Kindleのセールで買ったのがありましたので読みました。積読にしているうちに新訳が出たので、読んだのは旧訳の方です。

旧訳の印象ですが、やたらと読点が多く、やたらと漢字が開いていてちょっと読みにくい。ひょっとして本を読むことが禁じられた世界なので文章力が足りない演出なのかな?と思ったのですが、特にそういうわけではなかったようです。

旧訳を読み終わってから新訳を立ち読みしてみると、旧訳には無かった出典があるではないですか!というわけで、新訳も購入。

新旧で微妙に単語が異なっていました。気になった単語をピックアップ。

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salamanderなんて、サラマンダーでいいかと思うんですが、どうでしょう?

ケロシンは何か知らなかったのですが、調べてみると何のことはない灯油のことでした。

firemanを昇火士とするのは、「消化」と音でかけていていい造語だと思いました。

新訳版の出典でヨハネの黙示録旧約聖書ってなっていますが、たぶん新約聖書の間違いです。

あと、メカニカルハウンドで自殺する人のことが、旧訳ではメカニカルハウンドを自殺させたってなっているのはたぶん誤訳です。

 

 さて、ここからいよいよ内容について触れます(ネタバレ注意)

 原作と映画版とを比べると、自分は映画版の方が好みです。

映画版はボーイミーツガールの形でまとまっています。主人公は妻帯者ですけど。出会い、別れ、再会とラブロマンスとして見てもOKかと思います。

原作の方は、ヒロインかと思われたクラリスとは恋仲にはなりません。不思議ちゃんで気になる子だなとは思いますが、せいぜい娘を見る親くらいな感じでしょうか。

映画の方はクラリスと会ったことで本を読むことに目覚めて話が展開していくように思えましたが、原作の方はクラリスと出会う1年前から既に本の収集を始めていたようです。クラリスと出会うことで変わったわけではなく、本を読むようになったからクラリスに好かれるようになったと読み取れます。クラリスに好かれるようになったのは、『ビブリア古書堂』で「本好き同士は惹かれあう」と言われていたようなもんでしょうか。

で、原作の中で主人公を変えた人物とは誰か?と考えると焼け死んだ女性です。彼女が死んだことが主人公に大きな影を落とします。主人公を変えた女性はおばさんでした。

町を出てから主人公は爆弾が落ちるシーンを幻視します。

これは新訳聖書「ヨハネの黙示録」の追体験として捉えてみます。キリスト教の教えでは最後の審判により世界が終わり、キリストが再臨して今まで死んだ人が甦るとされています。『華氏451度』の世界に当てはめると、最後の審判は戦争です。死者の復活は戸籍上は死んだことにされた主人公が本を携えて戻ることです。ちなみに、『ターミネーター2』でサラ・コナーが核戦争を幻視したシーンも黙示録をなぞっているものと思われます。最後の審判=ジャッジメントデイということで。

華氏451度』で一番面白いなと感じたのは、本を焼くのを嫌がって飛び出してきたのに、結局本を焼くことになるという皮肉めいた展開です。しかも焼くという行為がフェニックスが自分の身を焼いて生まれ変わるという神話にかかっています。

この辺りの展開は美しくまとまっているなと感じました。

あとラストですが、個人的には映画版の方がいいなと思いました。書物人間も不老不死ではないので、次代に口伝で本を伝えていくという感じが。

本を読ませないようにする社会って荒唐無稽な、って感じるかもしれませんが、『華氏451度』では極端な話を書いているだけで小さいレベルだと既に日常の中でも起こっているかもしれないので、そういうことを考える時の基本として読んでおいてもいいのではないでしょうか。

 

華氏451度〔新訳版〕

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