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第4回名古屋SF読書会『ゼンデギ』

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4回目を迎えた名古屋SF読書会。今回はグレック・イーガン『ゼンデギ』でした。

ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)

ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)

 

 
前回までは30人ほどだったが、今回は少な目で20人弱。どうやらイーガンというのがネックだったらしい。というのはグレッグ・イーガンは難しいと評判のSF作家。人の評判によると『ゼンデギ』はイーガンにしては読みやすいとのことだが……。

人数が少なめなので今回は2チームに分けられてます。
自分が配属されたのはSFに詳しい人が多いチーム。最近の実績では、ハヤカワ文庫SF総解説の表紙データを提供した人や解説を書いているSF研究家、イーガン『クロックワーク・ロケット』の訳者の一人も同じチームです。この中では圧倒的にSF読書量が少ない自分ですが、みなさん優しく、ちゃんと話を聞いてくれて、自分が感じたことを話したらウンウンと納得してもらえました。
まず最初は自己紹介を兼ねた感想。その時に初イーガン作品も言うことになりました。自分は『ゼンデギ』が初イーガンですが、他のみなさんは何冊が読まれていました。

では、ブログには自分の話したことを中心に書きます。
『ゼンデギ』は難しいとされていたイーガンだったのでハードなSFと構えていたら違っていました。たとえるなら「ジェット戦闘機の戦いを期待したらライト兄弟の物語だった」という感じです。
『ゼンデギ』は他の作品と絡めた人格のアップロードが当たり前の世界になる前の黎明期的な物語を書こうとしているのかなと感じました。年代記モノ的なスピンオフのような。

この辺からネタバレを含むので注意してください。

 

第1章のレコードのデジタル化が失敗が物語を暗示していて、マーティンの人格コピーも失敗したように書かれているけど、実は技術的には成功しているんじゃないかと思いました。
もともと、サイドローディングは脳を物理的に細かく解析する方法よりもお手軽にやるという方法なので、妥協的な成果しかでないのは当然です。やろうとしていることは出来ているし、それ以上にマーティンのトラウマまでコピーしていたので期待値以上ではないかと。おそらく、ジャックがキレた状況はマーティン本人もキレてたんじゃないかと。
→他の人が補完してくれました。ジャックはマーティンの心を映す鏡のようなもので、醜い部分を映したので否定したくなったのだと。
→レコードのデジタル化の失敗は直接的に失敗するよ、ということではなく、新しい技術には「思わぬ落とし穴があるよ」という暗示だと指摘されました。

あと自分の率直な感想として「長い。半分くらいになるのでは?」に対して、イーガンは細かいところにこだわる性格(ブログ上婉曲的な表現にしています)なので余計と思える描写が増えるという意見がありました。

マーティンは実はイヤなやつ。オマールがいいやつという意見も多かったようです。自分もそう思いました(笑)。

このチームは理系人が二人しか居ませんでした(自分を含む)。理系的にはAIやディープラーニングも絡めた話がありました。
ラストの「もしなにかを人間にしたいなら、人間まるごとをお作りなさい」に関して自分の解釈はこうです。
プログラムなんかを修正していくとパッチをあててツギハギだらけになってゴチャゴチャと複雑なものになっていきます。それよりも作り直した方が早いと言われることがあります。『ゼンデギ』の人格コピーの技術も黎明期で後の世ではもっと画期的な技術ができて、サイドローディングは使われなくなるかもしれないということかもしれないと。


次に読むオススメでは、
野崎まど『アムリタ』
・映画『トランセンデンス』
南條竹則『セレス』
・ジュナサンホルト『カルニヴィア』
川原礫ソードアート・オンライン』7巻マザーズ・ロザリオ編
・海外ドラマ『スタートレック ディープスペースナイン』「ジュリアンの秘密」
・イーガン『クロックワークロケット
・テリーヘイズ『ピルグリム』
・映画『マイライフ』
・ソウヤー『ターミナル エクスペリメント』
・ソウヤー『ゴールデンフリーズ』
・ガレス・L・パウエル『ガンメタル・ゴースト』
です。

もう一つのチームは
・『重力が衰えるとき』
・『デューン
グレアム・グリーンヒューマン・ファクター
・イーガン『ぼくになるとき』(『祈りの海』に収録)
・ティム・パワーズ『石の夢』
・ディック『偶然世界』
・映画『コングレス』
・映画『ライオンと呼ばれた男』
・映画『フィールド・オブ・ドリームス
・ロバート・B・パーカー『初秋』
・ヴァーリィ『ブルー・シャンペン』
・シャーリィ『グリンプス』
・『ドラえもん
・アニメ『サマーウォーズ
・アニメ『楽園追放』
と、両チームとも被るものがなかったという結果になりました。

次回の第5回名古屋SF読書会の課題図書は『宇宙の戦士』です。

 

補足:

『バーナード嬢、曰く』で取り上げられたイーガン

konomanga.jp

 

『ピートのふしぎなガレージ』のSF回(『ゼンデギ』が取り上げられてます)

www.tfm.co.jp